2008年09月17日

【号外】ネッツトヨタノヴェル三重で起きた暴力事件に関する所感

a839d5df.jpg過日、残念な事件が起きました。
三重県にあるトヨタ系自動車販売会社「ネッツトヨタノヴェル三重」の某店舗で、店長が、本年新卒で入社し五月に仮配属された営業マンさんに、業務目標未達を主たる理由として約一ヵ月半に渡って暴力行為を行い、骨折等の怪我を負わせていたようです。

新人にパワハラ、骨折 自動車販売33歳店長

トヨタ自動車系列の販売会社「ネッツトヨタノヴェル三重」の三重県北勢地方の店舗で、男性店長(33)が新入社員の男性(23)に対して繰り返し胸や顔を殴り、肋骨(ろっこつ)を折るなどのけがを負わせていたことが分かった。
男性は骨折直後の6月下旬から会社を休んでおり、店長は暴力を認めている。

男性は今春大学を卒業し、4月に入社。
5月9日に営業担当として同店舗に仮配属された。
男性によると、初めて殴られたのは同16日。
会社を休む6月25日までの間で計10日殴られた。
頭を足で踏まれたり、傘で頭をたたかれたこともあった。
殴打の回数は100回以上にのぼる。

ほとんどの暴力は、目標をこなせないことがきっかけ。
骨折した6月19日は「民家100軒を訪問して、セールスのきっかけとなる車の査定を7台以上してくるように」と店側から言われた。
男性は83軒を訪問したが車の査定はゼロ件だった。
この結果に店長が「なぜ100軒回れない」などと激怒。
男性は胸や左腕を殴られ、首を絞められた。

本紙の取材に対し、店長は弁護士を通じて、骨折させた日の暴力は認めているが暴力をふるった日数は「計7日」で、殴ったのは「数十回」、さらに「殴打以外の暴力はない」と説明。
「やる気がないのなら再就職した方がいいと勧めると、男性が『会社をやめたら収入がなくなるし再就職活動は面倒くさい』と言ったので感情的になって殴ってしまった」と主張している。

店長は営業成績を見込まれて、4月に店長に抜てきされた。
同社の三重県内12店舗中で最下位に近かった店の営業成績をすぐにトップクラスに引き上げていた。
会社も店長の暴力を把握しているが、労働トラブルを短期間で処理する労働審判が今回の件で16日に津地裁で始まるため、その結果を待って店長の処分を検討するとしている。

(※以下は報道側の所見につき省略)

2008年9月5日付中日新聞から引用
http://www.chunichi.co.jp/article/national/news/CK2008090502000057.html

私は、仕事柄、本件に関する所感を様々な方から求められました。
また、私が管理人を務める新車購入支援のmixiコミュの「後悔しない新車購入研究会」ではトピが立ちました。(↓)
http://mixi.jp/view_bbs.pl?id=34754219&comm_id=2750302
(※閲覧にはmixiのIDが必要です。IDをご希望の方は堀宛へメール願います。)

つきましては、今号は号外とし、本件に関する個人的な所感を述べさせていただきます。
何卒ご了承いただきますようお願い申し上げます。(礼)



自動車販売店は、通常、数名の営業マンと数名のサービスマン(整備士)が勤務しています。
もちろん、彼らは成人です。
彼らも、暴力行為が法律で禁じられていることはわかっていたはずです。
そして、自動車販売店は、通常、バックオフィスよりも展示場と工場に敷地の多くを割いています。
社員が秘密裏(?)にコミュニケーションを行う場所は、殆どありません。
以上により、自動車販売店の中で一日当たり10回もの暴力行為が行われていれば、
社員の誰かしらが見ているはずです。

また、自動車販売店は、経営者(社長)や本社マネージャーの管理監督下に位置付けられています。
彼らは、定期的に店舗を巡回し、営業活動の実情や社員の士気を確認します。
以上により、自動車販売店の中で一日当たり10回もの暴力行為が行われていれば、彼らの誰かしらが知り得るはずです。

しかし結果として、加害者である店長の暴力行為は、一ヶ月以上続きました。
被害者の営業マンさんは、その間肋骨を折るなど負傷し、休職しました。
この事実は、以下のいずれか又は複数が事実であったことを物語っています。

【1】加害者である店長の暴力行為を、同じ店に勤務していた社員さんは、見聞きしていたものの、一ヶ月間以上制止しなかった。

【2】加害者である店長の暴力行為を、同じ店に勤務していた社員さんは、見聞きしていたものの、一ヶ月間以上社長や本社マネージャーへ報告しなかった。

【3】加害者である店長の暴力行為を、販売店の経営者(社長)さんや本社のマネージャーさんは、被害者の営業マンさんが休職するまで知らなかった。

【4】加害者である店長の暴力行為を、販売店の経営者(社長)さんや本社のマネージャーさんは、知っていたものの、本気で制止しなかった。

本件に関する労働審判が、昨日(9月16日)から行われているようです。
ゆえに、現時点において、以上のいずれが事実かわかるよしもありません。
が、確かなことがひとつあります。
それは、「被害者の営業マンさんの受けていた暴力行為が社内で看過されていた」、ということです。
私は、この事件の鍵がここにあるように思えてなりません。

私は、現在実施されている自動車営業の大半は、活動拠点がお客さま宅から店舗にシフトされてきてはいるものの、自動車業界のglory daysであった高度経済成長期から本質的には変わっていない、と考えています。
なぜなら、根本思想(コンセプト)が、ずっと“個人商店”と“強者偏重”であり続けているからです。

“個人商店”とは、「業務プロセスと実績がいずれも自己責任である」、ということです。
“強者偏重”とは、「業務遂行者を強者、即ち、生来のデキる人(=会社や上司がマネージしなくても相応の実績が出せる人)と想定している」、ということです。

結論から申し上げると、私は、今回の事件は、現在の社会情勢にそぐわない根本思想で営業が推進された悲劇である、と考えています。
私は、今回のような事件を防ぐには、自動車販売会社の経営者(社長)が、営業活動の根本思想を“個人商店”と“強者偏重”から“チームプレー”と“総力戦”へ変えることが欠かせない、と考えます。

そもそもなぜ、高度経済成長期における自動車営業の根本思想は、個人営業と強者偏重を旨としていたのでしょうか。
それは、社会が物質的に未成熟であり、かつ、マーケットが右肩上がりの時(=需要が供給を上回っている時)は、金と出世をニンジンに個人の競争意識を鼓舞し、優勝劣敗を促すのが、社員と会社の双方にとって好都合だったからです。

なぜ、個人営業と強者偏重の根本思想は、変わらなくてはいけないのでしょうか。
それは、社会が物質的に成熟し、マーケットが右肩下がり(=供給過多)になると、金と出世をニンジンに個人の競争意識を鼓舞し、優勝劣敗を促すのが、とりわけ若い社員にとってナンセンスに感じられるからです。

ただ、人は、環境に適応する習性を持っています。
だから、社員さんの多くは、最初の内は「こんな考えはナンセンスだな!」と感じるものの、同じ環境に長く居る間次第に「まあこんなものだな」と感じるようになります。
しかし、これは積極肯定ではありません。
解決行動を実行するコストやリスクにおののいた、無力感を抱きながらの消極的肯定です。
被害者の営業マンさんの受けていた暴力行為が一ヶ月以上もの間社内で看過されてしまった元凶はここにある、と私は考えます。

余談ですが、営業の根本思想としての個人商店と強者偏重が「制度疲労」ならぬ「思想疲労」を起こしているのは、自動車だけではありません。
不動産や生命保険の営業も、殆ど同じです。

なぜ、変わるべき根本思想は、チームプレーと総力戦なのでしょうか。
それは、お客さまと社員の双方がそれを求めているからです。
お客さまは、営業マン個人からだけでなく、店(会社)全体からもてなされたがっています。
社員、それもとりわけ若い社員は、自分の役割や長所に応じて他の社員と協働し、その中で自分の成長と店舗における存在意義を認識したがっています。

なぜ、社会や社員の意識が変わっているのに、自動車営業の根本思想は変わらないのでしょうか。
それは、自動車メーカーの国内販売部署の責任者さんや自動車販売会社の経営者さんが、思考停止を続けているからです。
彼らは、glory daysに得た成功体験に固執し、収益をもたらしてくれるお客さまと社員の実情と気持ちを斟酌しかねているのです。

変えた根本思想は、具体的にどう活かしたらいいのでしょうか。
この自動車販売会社の実情がわかりかねるため、明確な回答は困難です。
ただ、多分に、営業プロセスを具体化/共有化/可視化したり、上司と部下や社員同士の有意義なミーティングを定例化したり、個人の業績評価に店舗(会社)の実績を加味するなど、協働と連帯責任感(=One for all. All for one.)を奨励する社内マーケティングプランを策定、実行するのは欠かせない、と私は考えます。

とにもかくにも、被害者の営業マンさんが心と体に負った傷が一日も早く治癒するよう、また、不遜ながら、ネッツトヨタノヴェル三重に加え、その他の自動車販売会社の経営者さんと自動車メーカーの国内販売部署の責任者さんが思考停止を解除してくださるよう、私は心から祈念申し上げます。(敬礼)



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