2008年10月22日

【号外】販売店対応の満足度がダントツに高いレクサスが販売面で苦戦している理由(2)

前号では、J.D.パワーさんが発表した「2008年日本自動車セールス満足度(SSI)調査」結果において、販売店対応の満足度がダントツに高いレクサスが、なぜ販売面で苦戦しているのか、読者さんから頂戴した回答を転載させていただきました。

★前号のメールマガジン版
http://archive.mag2.com/0000217480/20081015080000000.html

★前号のweb版
http://www.dekirueigyoman.com/archives/51055125.html

頂戴した回答は大変参考になりました。
つきましては、今号も前号に引き続き号外とさせていただき、本件に関して私も回答させていただきたく思います。
何卒ご了承いただきますようお願い申し上げます。(礼)
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なぜ、レクサスは、J.D.パワーさんが発表した「2008年日本自動車セールス満足度(SSI)調査」結果において販売店対応(※構成要素は「セールス担当者」、「購入条件」、「営業体制」、「店舗施設」、「商品展示」)の満足度が競合と比べてダントツに高いにも関わらず、販売面で苦戦しているのでしょうか。

レクサス店は、店頭販売を旨としています。
店頭販売実績は、<来店数×店頭成約率>で算出できます。
店頭成約率は、<「商品」&「販売店」&「担当営業マン」満足醸成力>と同義です。
「商品」&「販売店」&「担当営業マン」満足醸成力は、<商品力×販売店対応力>と同義です。
商品力は、<商品独自価値×市場力×ブランド力>と同義です。

満足とは事前期待から事後評価を差し引いた肯定差分の感情です。
大事なのは、事前期待と事後評価のバランスです。
事前期待が高いと、事後評価がそれを超える位高くない限り、否定差分の感情、即ち不満足を抱きます。
事前期待が低いと、事後評価がソコソコ高ければ、肯定差分の感情、即ち、満足を抱きます。
テレビで絶賛されていたラーメンが実際に食べるとイマイチに感じられたり、出張先でたまたま食べたラーメンが殊の外美味しく感じられたりするのは、そういうことです。

話は少し逸れますが、以上のことから私は、「対象客を精緻に絞り込んでいない満足度調査が評価しているのは、高確率で満足ではなく事後評価の度合いである」、と思っています。
満足度を正しく評価するには、予め事前期待の高さを揃えることが欠かせません。

「おもてなし」とは、「眼前のお客さまを唯一のお客さま(=only the customer)として認知し、心情(潜在課題)を斟酌し、かつ、個別解決策を迅速に案出、実行すること」です。
行動の有無による検証が困難で、満足度調査での評価も困難ですが、お客さまにとって良い意味での「出会い頭の事故」であり、総じて高い事後評価が得られます。

トヨタは、この「おもてなし」をレクサスのブランドコンセプト(競合優位)に掲げました。
これは、新規参入者ならではのブランド力不足を解消する一計と考えられます。

レクサスが掲げた「おもてなし」は、自動車販売ではずっと縁遠いものでした。
レクサス車の購入希望客(販売対象客)の事前期待は、大いに高まりました。
レクサス店が店頭成約率を担保するには、販売店&担当営業マンに関してはもちろん、商品に関しても高い事後評価を得ることが不可欠になりました。

レクサスのマーケットは、月平均およそ17,000台です(※2007年10月〜2008年9月)。
その内およそ7,000台は、メルセデスとBMWで占められています。
レクサスが月4,000台の販売目標を達成するには、輸入車ユーザーを主販売対象客にすることが不可欠です。

国産車ユーザーは、商品&販売店&担当営業マンに関してさほど高い事前期待を抱いていません。
一方、輸入車ユーザーは、販売店&担当営業マンに関してはもちろん、とりわけ商品に対して高い事前期待を抱いています。
レクサス店&レクサス営業マン(SC/セールスコンサルタント)や、レクサス車に対しては尚更です。
レクサス店が販売目標を達成するには、輸入車ユーザーが抱く高い事前期待を超える「おもてなし」をプレゼンし、かつ、商品&販売店&担当営業マンに関してかなり高い事後評価を得ることが不可欠です。

前号で読者のIさんが知らせてくださった東洋経済の記事に、以下の記述がありました。

同販売店では当初、顧客の半分以上はBMWやベンツなど競合輸入車からの乗り換えで満たす計画だった。しかし現在、新規顧客のうち、輸入車の元オーナーは全体の2割程度。別のレクサス販売店幹部も「高級外車オーナーの来店は多いが、期待どおりの受注にはつながらなかった」と話す。

「販売不振の真相とは レクサスが失速 逆上陸作戦の誤算(1)」2008年7月18日付東洋経済オンライン
http://www.toyokeizai.net/business/strategy/detail/AC/3a9d26fe9d6102b3ce582f2f58b61b0a/

本記事から、以下が理解&推量できます。

<1>レクサス店の来店客数(=レクサス車購入希望客)は、販売目標逆算的に足りている。

<2>レクサス車の購入客の8割が国産車ユーザーで、2割が主販売対象客の輸入車ユーザーである。

<3>レクサス店の店頭成約率は、国産車ユーザーはマズマズであるものの、輸入車ユーザーは低い。

以上のことから、私は、レクサスが、調査結果の満足度はダントツで高いものの、販売面で苦戦している理由を以下のように考えました。

【1】調査結果は、レクサスのブランドコンセプトである「おもてなし」の評価を欠いた、事前期待を異にする全銘柄顧客の事後評価である可能性が高く、必ずしもレクサスに対する満足度、ひいては、レクサスの店頭成約率を表していない。

【2】苦戦理由としてしばしば挙げられる「競合対比での商品価値不足」は、現時点では決定的でない。競合対比で商品価値が本当に不足しているならば、来店客数が販売目標逆算的に足りることはない。

【3】苦戦理由としてしばしば挙げられる「販売対象客の属性(ニーズ)と商談場所の不一致」は、現時点では決定的でない。販売対象客が本当に店舗ではなく自宅での商談を望んでいるならば、来店客数が販売目標逆算的に足りることはない。

【4】現時点における決定的な苦戦理由は、主販売対象客の輸入車ユーザーに対する「おもてなし」のプレゼン実施&成功確率が低いこと。これが、高い事前期待を超える高い事後評価を商品&販売店&担当営業マンに関して得る妨げとなっている。

同時に、私は、レクサスが苦戦から脱却する糸口を以下のように考えました。

〔1〕トヨタが、苦戦の理由を総括し、全国のレクサス店へ発表する。

〔2〕トヨタが、レクサス担当者(ロードマン)を、より、人に対する興味が強く、かつ、「おもてなし」に相応しい感性を持つ人へ一新する。

〔3〕レクサス店が一定期間ブランドマーケティングと人材教育に注力できるよう、トヨタが期間限定でレクサス店を財務支援する。

〔4〕レクサスに関わる全員が「おもてなし」をブランドコンセプト(競合優位)として留意&プレゼンし販売対象客から高い事後評価が得られるよう、トヨタが然るべき業務プロセス、社内研修、イベント、業績評価体系を案出&実行する。

〔5〕「おもてなし」が店頭成約率の向上に寄与したか否かが検証できるよう、トヨタがレクサス店と連携して来店客から非成約理由をうかがえる&店舗へフィードバックする仕組みを案出、実行する。

リッツカールトンの日本支社長を務める高野登さんは、かつて講演で以下の旨をおっしゃっていました。

リッツカールトンは、トップ5%の顧客層を中心顧客とし、彼らを満足させるに足るサービスの研鑽に日々励んでいる。
これは、「トップ5%以外の顧客を相手にしない」、という意味ではない。
トップ5%を満足させようとする姿勢や努力が、その他の顧客を高確率で満足させ、高いリピート率と口コミ率を生む。

顧客満足の上限値は80%だ。
80%だからといって、手を抜いてはいけない。
上限値の80%は、100%を目指して初めて達成できる値だ。

私は、過去マセラティ・クアトロポルテの実車を見に、輸入車販売店のコーンズを訪れたことがあります。
私は、トップ5%では決してありませんが(笑)、事前期待を超える「おもてなし」を約二時間受け、商品&販売店&担当営業マンに関して高い事後評価を抱きました。
そして、「その時が来たら、マセラティを買いたい!」と心底思いました。(笑)

私は、過去GSとLSの実車を見に、レクサスを訪れたことがあります。
私は、トップ5%でなかったためか(苦笑)、高い事前期待を超える「おもてなし」を商品&販売店&担当営業マンのいずれからも受けることができず、レクサス及びレクサス車に関して高い事後評価を抱きあぐねました。
これは、つい二週間ほど前、青山にできたばかりのレクサス店を訪れた時も同様です。

私と同じ思いや経験をしている人は、周囲に少なくありません。
これは、当事者にとっては「リソースの浪費」であり、レクサス店にとっては「販売機会の損失」です。
私は、レクサスの苦戦脱却を祈念しております。(礼)



※関連号外
販売店対応の満足度がダントツに高いレクサスが販売面で苦戦している理由(1)

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